2009年7月15日水曜日

彼方へ

砂漠の地下には砂の厚さと同じだけの深さの湖があるという。
砂漠の風紋は、鏡のように湖の波紋となって現れる。
砂漠の底が湖底であり、湖底は砂漠の底である。しかし清らかな水は、砂漠を潤すことは決してない。

ここに、砂漠に迷った旅人の亡骸がある。
静かに静かに、砂は旅人を覆い、沈めていく。
何十年経ったであろうか、ようやく砂の底まで沈んだ彼は、事切れたその瞬間の姿のままだ。
湖は、旅人の衣服をじんわりと濡らし、やがて彼を水中に引き入れ、流す。ゆっくりと湖面に向けて浮かび上がらせる。
長い時を掛けて、彼方へ辿り着く。旅人の旅は終わった。

(260字)