2008年8月15日金曜日

レモン病

泣いている彼女の頬にキスをしたら、レモンの味がした。
コンピューターで彼女の涙を解析したけれど、何度やっても結果は「果汁:レモン」と出る。
ぼくは図書館に籠もった。植物の本、果物の本、医学の本、レモンの出てくる文学、料理の本、思いつくものを片っ端から調べたけれども、レモン汁の涙の記述は出てこない。
「何を調べているのですか」
図書館司書がそう尋ねるのでぼくは正直に応えた。
「レモンの涙について。ぼくの恋人の涙は、レモン汁なんです」
すると図書館司書はふわぁぁと大きな欠伸をした。
「あなたもずいぶん重症なレモン病にかかりましたね」
目尻に溜まった涙を指先で掬う。
「ほら、舐めてご覧なさい」
差し出された人差し指を口に含むと、やはりレモン汁だった。