2008年6月29日日曜日

運命とカラス

鈴をつけたカラスが現れる。漆黒の躯にその小さな金色は輝きすぎる。鈴が僕を嘲った。
きみに伝えたかった言葉は鈴の轟音にかき消され、カラスはあっけなくきみを連れ去った。

帰り道、サキソフォン吹きがいた。
誰も立ち止まらない。聴衆は僕一人。褐色の指に操られてサキソフォンが「黒いオルフェ」を歌う。
「恋をなくしてしまったよ」
と僕はサキソフォンに話しかけた。
「鈴をつけたカラスのせいだ。鈴はそう、あんたみたいなキンピカの金色だった」
僕は饒舌になっていた。
「ほんの小さな鈴のくせに頭が割れるほど大きな音で鳴るんだ。あんたみたいに歌いはしない。耳を塞いだその隙に、カラスにあの娘を奪われた」

サキソフォンに黒い影が横切る。
サキソフォンが歌うのを止めた代わりに、褐色の男が低い声で言った。
「振り向くな。振り向けば、また鈴が鳴る」
僕はその言葉を最後まで聞くことができずに。

脳内亭さんのタイトル案リストより