2004年8月20日金曜日

かっぽう着

それはジュンの家から帰る途中だった。
少し遅くなって、早足で家へ向かっていた。
突然、足がすくみ、一歩も動けなくなった。
夕暮れをすぎた町は、なにもかもが違って見えた。
車の音も、遠くで鳴っている踏切の音も、作り物みたいに聞こえた。
家で待っているのは、ぼくの知っているお母さんではないのではないか。
ココハボクノシラナイマチダ
そう思ったら、動けなくなった。
一体どれくらい立ち尽くしていたのだろう。
何の前触れもなく真っ白なかっぽう着を着たおばさんが現れた。
「おやまあ」
ぼくは逃げ出したかった。
誰にも話し掛けられたくなかった。
おばさんはかっぽう着のポケットからみどり色のビー玉を出した。
「これをあげるから早く帰んなさい」
ビー玉を渡されたぼくは、弾けたように走り出した。