2015年2月9日月曜日

とりかへばや

 赤いマニキュアは、大人の女になれたら塗ろうと決めていたのに、いつまで経っても「大人の女」にはなれないまま、年齢ばかり重ねていった。
 あなたの節くれだった大きな指の先が、赤く艶やかに彩られていたのを見て、私がどんなにショックだったか、あなたにはわからないでしょう?
 どうして私を差し置いて、赤いマニキュアを塗ったの? どうして? どうして?
 自分の身体を這う赤い十の爪を、ぼんやりと眺めることしかできなかった。声も出なかったし、潤いもしなかった。私は無言で服を着て、あなたを置いて帰った。
 帰り道、私は赤いマニキュアを買った。そのデパートで一番高価な赤いマニキュアを買った。理想の赤。理想の艶。ほら、やっぱり、私の小さく細い指のほうが、ずっと赤い爪にふさわしい。
 真っ赤な指先で己の身体を撫でる時、漏れる吐息は、あなたの低い声によく似ている。