2013年8月19日月曜日

レンコンとアスパラのスープ

 シャクシャクと音がする。「いい音で食べるね」と声を掛けると、少年は顔を上げてニッと笑った。本当に楽しそうな音だ。
 少年はあまり言葉を話さない。だが、食べるときはとても饒舌になる。言葉ではない。表情や仕草から「おいしい!」が溢れてくるのだ。
「レンコンが入っているのね?」と尋ねると、大きく頷いた。それからアスパラガスもひょいと箸で持ち上げて見せてから、ぱくりと口に入れた。
「レンコンとアスパラが入ってるのね」と言うと、少年はまたニッと笑った。
 少年はどんどん食べるけれど、器の中のスープは一向になくならない。リズムよくレンコンがシャクシャクと音を立てている。
 食べる速度がゆっくりになってきてようやく器のスープも減り始めた。食いしん坊に都合のよい器。
 空になった器を置くと少年はいつものむっつりとした表情に戻り、立ち上がった。去っていく足音は軽やかだから、きっと満足したのだろう。「難しい年頃」というけれど、そんなこともないと思う。