2009年1月17日土曜日

初恋の思い出

尻尾を切られた黒猫は、橋の欄干の上で丸くなり、夜の川面を眺めている。ここは海が近い。潮風がヒゲに当たる。
「何をしてるの? ヌバタマ。こんなところに座っていて怖くない?」
少女に問われる。
黒猫が初めて仲良くなった娘猫は、港に暮らす猫だった。漁師に魚を貰い、潮風に当たりながら毛繕いをし、船乗りとひとしきり遊び、倉庫の隅で眠る、そんな日々を送る彼女のことを海の近くに来る度、思い出す。
〔ただ、それだけだ〕
と、黒猫は答えて立ち上がった。
夜の川面は、空より暗い。