2008年12月14日日曜日

ご清聴ありがとう

 朗読者が口を開くと中からひょっこりと小さなピエロが出てきたのだった。周りを見回したが、誰も驚いた様子はない。ピエロが見えていないのか、当たり前の光景なのかはわからない。
 ピエロはマイクにちょこんと腰を下ろし、朗読を聴いている。時に頷き、時に可笑しそうに笑いながら。ピエロを見るのに夢中だったのにも関わらず、朗読者の声は、私の耳にとろとろと流れ込み、鮮やかに世界を造った。私はピエロと同じように頷き、多いに笑った。
 朗読者が最後の一声を発し終わる寸前、ピエロはくるんとお辞儀をしてから朗読者の口内に飛び込んだ。
 観客の拍手に応えて朗読者は頭を下げる。それはピエロとそっくりのくるんとしたお辞儀だった。

てんとう虫の呪文フライヤー用書き下ろし@西荻ブックマーク「超短編の世界」