2006年11月3日金曜日

匂宮になるために

ようやく黄色く色づきはじめたカリンの実をもいで、匂いを確かめる。僕は、その場で服を脱いだ。寒いなんて言っている場合じゃない。
カリンの実を、少し粟立つ身体にこすりつけていく。首、脇、膝のうら、みぞおち、鼻のまわりにも。
彼女はうっとりと喜んでくれるはずだ。
でも、僕は不満で仕方ない。カリンの香りがしないと彼女は僕の胸に飛び込んでこない。
だから僕は毎年、カリンが色づくのをそわそわと、少しの苛立ちを抱えながら、指をくわえて待っているのだ。