2009年1月8日木曜日

お喋りな石

「ちょっと、そこの黒猫。尾のない猫よ、頼みがある」
呼び止められて黒猫は立ち止まるかどうか迷った。黒猫を呼び止めたのは、塀の上に落ちていた白い石だったからだ。あまりよい頼み事ではないに決まっている。
〔何用だ〕
「黒猫よ、月と懇意であるな。我が輩は月に用があるゆえ、月のところへ運んでくれ。我が輩はこの通り死の危機に直面しているために自力では辿りつけない」
石の癖にお喋りで、どこが死にそうなのか、さっぱりわからない。
〔断る〕
黒猫が再び歩きだそうとすると、石は言った。
「その瞳、お前は石を飲んだことがあるはずだ。だから、我が輩の声が聴こえる。人間に言葉が通じるのもまた、尻尾を切られたからであろう。どうだ、違うか」
黒猫は仕方なく白い石をくわえて、月と少女の元に向かった。
今度は飲み込まないようにしないとな、と黒猫は独りごちる。