懸恋-keren-
超短編
2009年1月1日木曜日
差し出された手や手
三度目の新月の晩、黒猫は兄弟たちが眠っている間に、旅立った。
人間たちが世話を焼いてくれるので、ひもじい思いをすることはなかったが、一ヶ所に留まることは嫌った。
ミルクを差出し、身体を撫でていった人間の手を、黒猫はすべて覚えている。
皺だらけの手からは歓びを、太い指からは哀しみを知った。
小さな手からは怒りを、細い指からは、切なさを感じた。
尻尾を掴んだ少女の手は、今までとは明らかに異なる手だった。
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