黒猫の尻尾を握っていれば、少女は安心だ。黒猫が独りで出掛けている時でも体温を感じることができる。黒猫の機嫌や、近くまで戻ってきたこともわかる。
けれども今夜は違った。だらんとしたまま動かず、温もりがない。毛並も悪かった。こんなことは、初めてだった。
少女は黒猫の身に何かあったのではないかと、気が気でない。
尻尾を握り締めたまま駆け廻る。もう隣町だ。夢中で走っているうちに、少女は独りで来たことがないくらい遠くまで来てしまっていた。
〔キナリ、どこへ行く〕
少女は急ブレーキを掛けたように立ち止まった。
「ヌバタマ、ヌバタマの尻尾が、尻尾が……」
〔ちょっと遠く離れていただけだ〕
黒猫は、少女の涙を舐める。海の匂いとよく似ている、と思いながら。