〔おもちゃ屋に行く〕
黒猫は、小さな小さな路地を入る。
割れた瓶が転がる酒臭い細い道を歩く少女の胸は好奇心と恐ろしさが半分づつである。
「ねぇ、ヌバタマ。こんなところにおもちゃ屋さんなんてあるの?」
ふいに少女の前に現れたのは、恐ろしいほうだった。
顔の赤い大男が、少女の前に立ちふさがる。黒猫は大男の足の間をすり抜けて行ってしまう。
「おい、こども!」
怒声と酒臭い息が少女に降り注ぐ。
「この先のおもちゃ屋に連れていってやる」
大男が少女をひょいと肩車してその場で三回ぐるぐる回った。
降ろされるとそこは、人形やビー玉や汽車がぴかぴかに輝く部屋の中だった。大男の姿も黒猫の姿もない。誰の気配もしない。おもちゃたちが皆、息を潜めて少女を観察しているような気がして、少女の鼓動は速くなった。
〔キナリ、ずいぶんと遅かったな〕
欠伸をしながらそう言った黒猫は、たくさんの猫のぬいぐるみに埋もれていた。
「いらっしゃい、お嬢ちゃん。よくこの店がわかったね。あぁ、黒猫と友達なんだね」
にこにこと現れた紺色のエプロンを締めた店主は、さっきの大男だ。