産まれたばかりの弟は、そりゃあもう、チンパンジーにそっくりのかわいらしさだった。私はすぐに決心した。迷いはなかった。
「ママ、パパ。この子は私が育てる。いいでしょう?」
私は弟がそのまま大きくなるように願った。クリッとした黒い瞳、ふぅわりとした体毛、豊かに感情を表す口元、赤くてぽっこりとしたお尻、細長いのに力強い手足。
だから私は哺乳瓶とバナナと弟を抱えて、毎日動物園に通ったの。
檻の中のチンパンジーたちは、まもなく弟の顔を覚えて、挨拶するようになった。弟もチンパンジーと同じ挨拶をすぐに覚えた。幼稚園に行く年頃になるとチンパンジーに弟を預けた。
弟は、今度結婚する。もちろんチンパンジーと。フィアンセは私が弟を連れて動物園に通いだした頃産まれた子。弟にとっては幼なじみ。彼女はもう妊娠しているから、今度こそ本当のチンパンジーの甥っ子(姪かもしれない。どちらでもいいの)が産まれるの。