小学校に続く長い坂の入り口には「三十六度」と書かれた汚れた木の杭が立っていた。だから皆、この坂を「三十六度坂」と呼んでいた。
子どもたちは、学校で分度器を習うと、一様に「この坂の角度は36度だ」と思い込む。
坂道に記された三十六度の意味、それはかつてここにあった祠の名残なのだ。
祠は何度造り直しても原因不明の小火で焼け、三十六度焼けた後、再び建てられることはなかった。
杭だけになってからは小火は起きていない。
小僧たちがこぞって小便を引っ掛けるからだ、と杭にしがみついている祠の神様はぼやいている。