2009年1月26日月曜日

古い缶詰

黒猫にまだ尻尾があった頃のことだ。
餌を求めて迷い込んだ地下室に、夥しい数の缶詰が転がっていた。
ラベルは色褪せ、埃が積もり、錆びた缶詰は、一体何が入っているのかわからない。缶詰を開けるのは難しい。諦めて外に出ることにする。
ひとつ、膨張して今にも破裂しそうな缶詰があった。しかし黒猫はそれに気付かず、尻尾で蹴飛ばしてしまったのだ。
缶詰は、あっけなく爆発した。腐敗臭が地下室一杯に立ち込め、気を失いかけながら地下室から脱出した。

「それは何の缶詰だったの?」
少女が目を輝かせて問う。
〔わからない〕
「羊のげっぷ。七十六年前のな」
何故か、月が答える。