通る人すらいない商店街、目を閉じれば俄かに活気づく。
耳を澄ませて歩く。右手に八百屋のダミ声がする。近寄っておじさんに声を掛けた。
「りんごをください」
右手に袋を握らされ、また声を頼りに歩きだす。
店先でお客とお喋りに夢中の洋品店のおばさんの声を辿る。セーターと、新しいシャツと靴下を見繕ってくれと頼む。
「きっとよく似合うよ」とおばさんに紙袋を渡された。
それから最後は花屋さん。これは耳より鼻がいい。迷うことなく到着し、バラの花束を、と頼む。
花束を抱えて花屋を出るともうそこは商店街の終わりだ。目を開けると喧騒が消える。振り返ると、やはりシャッターの閉まった、がらんどうな通りだった。
なぜかバラの花束がずしりと重たい。