変異さんの人生はスリルとサスペンスに満ちている。
変異さんは、朝起きるとまず身体中を隈無く点検する。鏡も使う。
今日は点検するまでもなかった。全身毛だらけ、だったからだ。
「結構毛だらけ、猫灰だらけ」
今朝の変異さんは機嫌がよいらしい。
ともかく、こうして毎朝なにかしらの変異を起こしている。昨日と違ったところを見つけられないと焦る。左の尻っぺたの内側に小さなホクロが出ただけの時は、発見まで四時間掛かって、変異さんは半狂乱だった。
変異さんは、自分が男か女かも気にしない。長い時は四年ほど男だったが、八ヶ月間毎日男女を繰り返したこともあった。
色が白くなったり、黒くなったりもするし、背や体重も変わる。
変異さんのコンプレックスは、自分の容姿がない、ということだ。