2005年5月28日土曜日

月の客人

「お客さまだ、キナリ。ご挨拶なさい」
そう言われても、少女には客人の姿が見えなかった。
「はじめまして。キナリです」
お辞儀をすると
「キナリ、彼はこちらだぞ。なにをやっているのだ」
と月が叱る。だが、見えないと言うのは、はばかられる。
「ナンナル。キナリちゃんには、私の姿は見えないのだよ。叱らないでやってくれ。キナリちゃん、はじめまして」
優しいテノールの声を聞いて、少女は少し安心した。
「キナリには見えないとは、どういうことだ?」
月には、わけが解らぬ。
「私は透明人間なんだよ、ナンナル。人間には、月明かりが強い満月の晩にしか、見えないんだ。今日は満月じゃないからね。キナリちゃんが見えないのは当然だよ」
月はうろたえる。
「しかし、私の目には……」
透明人間が笑うのが、少女にもわかった。
「ナンナルが見えるのは当然だよ、月なんだから。そういえば、ナンナルが友達を紹介してくれるのは初めてだね。だから、今まで透明人間なのを説明しなかったんだ。キナリちゃん、どうぞよろしく」
少女は頭を撫でられた。その感触を辿って、透明人間と手を繋いだ。