2005年5月6日金曜日

THE MOONMAN

「……月の男は、エリーをしっかりと抱きしめ、口づけをしました。エリーにはそれがお別れの挨拶だとわかりました。とうとう、二人のくちびるが離れました。そして、月の男は振り返ることなく去ったのです。おしまい」
長い名の絵かきは「THE MOONMAN」と題された本を閉じると、月に言った。
「この月の男は、ずいぶんモテるんだね」
背の低いコルネット吹きは
「この月の男は、ちょっとばかり、かっこつけすぎているよ」
と笑う。
「ナンナルは、こんなこと書かれてイヤじゃないの?」
少女の声は、刺々しい。
月は溜め息をついた。一体誰がエリーと月のことを書き残したのであろうか。863年も前の恋物語を。