ある夜、尻尾を切られた黒猫が、街で一番高い煙突の上で鳴いていた。
「キナリ。ヌバタマの声がしないか?」
初めに気がついたのは、背の低いコルネット吹きだった。彼は耳がいい。
「キナリ、あそこだ。煙突の上にヌバタマがいるよ」
長い名の絵かきが、煙突を指差した。彼は目がいい。
少女は口から飴玉を出し、煙突にパチンコを向けた。彼女は耳も目も人並みだが、勘がいい。
少女の放った飴玉が、黒猫に命中したのかどうかは、コルネット吹きにも絵かきにもわからなかった。
しばらくして黒猫が三人の前に現れた。
〔痛いではないか〕
「にゃーにゃー鳴いてたよ」
コルネット吹きが言う。
〔猫がにゃーと鳴いて何が悪い〕
「目が光ってたよ、さびしそうに」
絵かきも笑う。
〔猫の目は光るものだ〕
「ありがとう、は?」
少女が迫る。
〔煙突の上は、いい眺めだ〕
しかし、黒猫はその晩ずっと少女たちから離れようとしなかった。