少女は長い名の絵かきとともに、背の低いコルネット吹きの部屋に来ていた。
「紙がいっぱい落ちてる!」
「ぼくの部屋より紙だらけだ」
絵かきも呆れる。
「チョット・バカリー、この紙は何?」
「楽譜だよ。ステキなメロディが浮かんだら、紙に書き留めるんだ」
一番多いのが書きかけの五線紙。それに出来上がっている楽譜、ボロボロになった教則本、音符が書き付けられた紙切れ。高価なスコアやレコードもある。それらが部屋に散らばっている。
コルネット吹きは、客人が座る空間を作るために、慌ただしく片付けはじめた。
「あ!」
少女が声をあげた。
「キナリ、どうしたの?」
「あそこに、へんなものが飛んでる」
少女が指差したのは、部屋の電灯である。絵かきが立ち上がって電灯に顔を近づける。
「チョット・バカリー、大変だよ。音符が飛び回ってる」
「アァ!なんてことだ。楽譜を乱暴にしたから、音符が逃げたんだ!」
少女は、飛び回る音符たちを捕まえて、五線紙に貼り付けた。
後にコルネット吹きがタイトルを付ける。
「MOONLIGHT BECOMES KINALI」