「キナリ、サーカスというのを知っているか?」
月の問いに少女は答える。
「知らない」
「では、これから見て来なさい」
めずらしく、尻尾を切られた黒猫が付いてくる。
「誘っても来ないのに」
〔損得勘定〕
月が少女を連れてきたのは、港だった。
「ほら、船長だ。船長がサーカスに案内してくれるはずだ」
少女は、馴染みの船長に飛び付く。
黒猫は、新鮮なご馳走をいただこうと、どこかに走っていった。
「船長、サーカスはどこ?」
「サーカス? あぁ、今日は満月だな。こっちだよ」
船長の肩車で、船の中に入る。アフリカから荷物を運ぶ貨物船である。
貨物の中には、ゾウやキリン、ライオンがいる。
少女は声をあげそうになる。
「静かに。これはマボロシだ。アフリカで寝ている動物たちの夢が、船に乗ってきたんだよ」
キリンは綱渡りが得意で、ゾウは玉乗り、ライオンは積み木をしている。どこからか、賑やかな音楽も聞こえる。
いつのまにか、少女も動物たちの輪の中に入り、一輪車に乗っていた。
それを見た船長は、寝息を立てている少女を肩から降ろした。