「ナンナル、この家入ってみたい」
少女の目の先には、小さな古い家があった。
黒く煤けた家に明かりはなく、夜道で見つけたのが不思議なくらいひっそりとしている。
「…誰も住んでいないんじゃないか?」
渋い顔の月をよそに、少女は玄関扉の前に立った。
「ごめんくださーい!」
返事はない。
「ほら、キナリ。誰もいないじゃないか。行くぞ」
月が立ち去ろうとしたとき、扉が開いた。
「お月様の直々のお出まし、大変光栄に存じます」
現れたのはコーモリだった。
「コーモリの家だったか……」
月は驚きを隠せない。
「さ、さ。キナリお嬢さま、どうぞお上がり下さい」
少女は喜んで中に入ったが、月は頑なに遠慮した。
「おいしいお菓子をいただいたよ。ナンナルも来ればよかったのに」
と言って出てきた少女は、身体中に埃や蜘蛛の巣が付いていた。
「ちょっと埃っぽかったけど」
入らなくてよかったのだ、と月は自分に言い聞かせる。