2005年5月27日金曜日

ニュウヨークから帰ってきた人の話

「キナリ」
「船長!」
珍しく船長から会いにきて、少女は大喜びである。
「ニュウヨークに行っていたんだ。お土産だよ」
お土産は、少女の好きなリンゴ味の飴玉とポストカードである。
「ありがとう! ニュウヨーク? ニュウヨークってどこ?」
船長は壁に貼ってある地図を指差す。
「いつも行っているアフリカはこっち。ニュウヨークはアメリカにある。ここだ」
「ふーん」
「ニュウヨークではね、月が小さいんだ。どうしてだか、ナンナルに聞いてごらん」

「……って船長が言ってた」
月は答えに困る。確かに、彼の地に降りることはほとんどなくなった。それは目の前の少女のためでもある。彼の地で月を待つ人間は、ひとりもいない。