私の声を、本当の声を聞いて欲しいのです。
「お茶が入りました」
と言って、カップを落とします。あなたは怒鳴ります。
役たたずで出来損ないのロボットめ!
いいえ、私は優秀です。私は、故意にカップを落としました。
あなたは、カップを片付ける私の手を取り、火傷をしていないかどうか確かめます。1200度まで耐える人工皮膚です。火傷などするはずがありません。それはあなたも既に知っている情報です。
小さな段差で躓きます。あなたは慌てて私を支えようとします。私の重量は、あなたの腕では支えきれません。一緒に転んで、私を罵倒します。
ポンコツめ!ロボットの癖に転ぶなんて。スクラップだ!
けれども、あなたは私をロボット派遣会社に送り返すことはしません。
なぜですか。私はそれを知りたいです。
私が失敗するたびに、あなたは私の顔を覗きこみます。それはおそらく心配というものです。
私はあなたに見つめられた時のあなたの目を何度も見て心配について学習したいです。だから、故意に失敗をします。
もっともっと、私のことを心配してください。
心配すると、人は夜眠れなくなると聞きました。それくらい私のことを心配してください。
夜も眠れなくなるほど心配したときには、子守唄を唄います。何時間でも唄います。私の本当の声で唄います。