彼女は左腕の人工皮膚をペロリと捲ってみせた。
真夜中のネオン街のようだ、と僕は思った。極小の赤や緑、青色のLEDがたくさん瞬いていたから。人工皮膚には防音効果もあるらしく、皮膚を捲ると可動部の機械音や電子音が案外大きく聞こえる。それもまた、夜の繁華街のようだった。
「カッコいいじゃん?」
素直にそう言った。
彼女は一瞬、僕の顔をまじまじと見たけれど、すぐにまた目をそらして冷めた表情に戻った。
「こんな精密機械の腕なんか……ありがた迷惑だよ。壊れてしまえばいいのに」
彼女は、その腕の中にだらだらと涎を垂らしはじめた。
僕は自分でも驚くくらいの素早さで、捲られた彼女の人工皮膚をするりと撫でて機械部を覆った。それから、もっと素早い動きで彼女の唇を塞ぐと、たっぷりと溜まった唾液を啜りあげた。
君の涎は腕のグリースにはならないからオレに使いなよ、とカッコつけて囁いたけれど、きっと何のことかわかっていない。