2008年7月14日月曜日

夢の味わい

  今夜の夢の蒸留酒は、何色かしらん。
  布団に入る前に、蓋を外した魔法瓶を部屋の真ん中に置く。慎重に位置を決めて。
  夢は、蒸気になって天井に上る。水滴になると電球を伝い雫となって、魔法瓶に落ちる。
  昨晩寝つきが悪かったせいで、今朝の酒はいつもより少なめだった。明日起きた時には魔法瓶一杯に貯まっているとよいのだけれど。
  獏の飼育係になって二年経った。獏の世話をする人間は夢が蒸気化する。獏がそうするのだ。獏が僕に馴れ、懐くにしたがって濃度は高くなった。近頃では、朝目覚めると桃色の霧の中にいた、なんてことも珍しくない。
  夢の内容によって蒸留酒の色は違う。僕が担当する雌獏ベルータは、勿忘草色をした夢の蒸留酒がお好みらしい。それは決まって初恋の人を夢に見たときの酒で、ベルータがうっとり旨そうに酒を舐める様子を眺めていると僕は堪らなく恥ずかしくなってしまう。


 


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コトリの宮殿 動物超短編(幻)投稿作