夜更け。小さな古い劇場の舞台にスポットライトが灯る。
もう劇団員は誰一人残っていない。
緞帳はつぎはぎだらけで、舞台はでこぼこ。天井はところどころ剥がれ落ちて、ちっとも声が響かない。劇場は百歳になった。
この劇場から巣立った役者は皆、ここに戻ってくる。曾孫のような若い役者たちを助けようと、役者魂だけになった大昔の演劇青年たちは、力を合わせておさらいする。
今度のヒロインはドレスを着るんだ。よく注意してやらなきゃ。でこぼこの舞台でつまずいたら大変だ。
あいつはまだまだ芝居というものが、わかっちゃおらん。甘やかすのはどうかと思うね。
まぁまぁそう言わずに、あの子たちにがんばってもらわなきゃ、おれたち浮かばれないからさ、ほら、ここの決め台詞、エコーつけてやろうよ。
役者魂たちは、さっきまでのリハーサルを懸命に思い出しながら、芝居の幻を舞台にくゆらせる。
あした、このお芝居で拍手が聞きたいのは、誰より役者魂たちなのだ。
大きな拍手が起きたら、また天井が剥がれるね、と役者魂の一人が呟いた。