自動扉が開く音を聞く一瞬前に、わたしは彼がやってきたことに気づく。
彼の匂いをいっぱいに吸い込む。体臭と呼ぶのは似付かわしくない、お香でも焚いたような香りを彼は放っている。
ステーション内は無菌室状態に近い。常に清浄器を通された空気が循環している。衣類や寝具もきっちり殺菌するので、地球にいたときのように、自分の匂いが馴染んだ布団に安心するようなこともできない。ライナスは宇宙ステーションでは暮らせないかも、と時折考え事にもならないようなことに思いを巡らせながら眠れない夜を過ごす。そう、ライナスじゃなくたって、眠れないのだ。
その代わり。こんな夜は、なんの匂いにも邪魔されず彼の匂いだけを嗅ぐことができる。
また鼻がひくひくしてるよ、と彼に笑われるけれど、あなたの香りにわたしがどれだけ助けられているか、知らないでしょう?
子供のように彼にしがみついて目を閉じる。彼の匂いと寝息が、わたしを眠りに誘う。
これで眠れなくなったら、地球に帰ろう