きみが海に帰ると言ったとき、ぼくは心底哀しかった。
海に帰るということは、水の泡になるということだ。きみの身体は鱗一枚も残らない。たとえここでぼくがきみの鱗を引っかいて、むしって、硝子の瓶に入れておいたとしても。
そんなことを考えていたせいか、ぼくはきみの鱗を逆立つように撫で回していた。
ざりざりざりざり
――やめて。鱗が剥がれちゃう。
ざりざりざりざり
――なんだよ、水の泡になるくせに、鱗が惜しいのか。
ざりざりざりざり
――そうよ。すべて均等に泡になりたい、一斉に。それ以上の何があるの?
何もないから、哀しいのに。