亀の姿で人語を操る山のぬしは、小さな洞窟に住んでいた。
ぬしと出会ったのは十年前、家出をして山に迷い込んだときにぬしが助けてくれたのだ。
「こども、何を泣いている。飴でもやろうか」と亀に言われてわたしはピタリと泣き止んだものだ。
後から知ったのだが、ぬしはペロペロキャンディーが大好きだったのだ。洞窟には色とりどりのペロペロキャンディーがきちんと整理されていた。
以来、わたしはぬしの洞窟に遊びに行くようになった。キャンディーを舐めながらぬしと喋るのは、楽しかった。
昨日、ぬしが突然我が家にやってきた。山のぬしが町まで出てきていいのだろうか。
「亀の足では何日かかったことやら。迎えに行ったのに」と言うと
「急なことだったのだ」と頭を甲羅に出し入れしながら照れ臭そうに言った。
どうやら歯医者に見つかりそうになったらしい。