エジプトの露店で、小さなオルゴールを見つけた。
金と紫色の石で細かい幾何学模様が施された箱型のオルゴールだ。
「東洋人、これはよいものに目をつけた」
などと店主に言われて、あやしさにますます胸が高鳴る。値段は安い。すぐにでも買いたかったが
「どんな曲が聞けるんだい?」
と聞いてみた。すると店主は目に見えて焦りだし
「音楽なんかどうでもいいじゃないか。金と紫水晶の細工がきれいだろう?お土産にすればいい。安くするよ」
とまくし立てた。
「確かにきれいな箱だよ。でもこれはオルゴールだろ?ちょっと聞かせてくれよ」
店主は、そんなの宿に帰ってからゆっくり聞けばいいじゃないか、と言い放つ。小銭を数枚渡すと、ろくに数も数えずオルゴールを私に握らせた。そして、早く去れといいたそうに「ありがとう」を繰り返したのだった。
オルゴールから聞こえたのは、女のすすり泣きだった。なぜか私はその声に心を奪われ、毎晩、発条を回している。