旅の途中で立ち寄った浴場は、ひどく寂れていた。脱衣所の蛍光灯は点滅し、そのスイッチは壁から垂れ下がって配線が剥き出しだった。
それでも、そそくさと服を脱ぎ湯に入った。寒さで縮こまっていた筋肉が徐々にほぐれていく。
心地よさは突然破られた。老婆が入ってきたのだ。混浴だったことにも、腰が曲がり骨と皮だけのような姿にも動揺した。しばらくしたら、素知らぬ振りで風呂から出よう。
老婆は浴槽の縁に腰掛けると、脚を広く開いた。やや苦しそうに呼吸している。大丈夫かと声を掛けるべきか。迷っていると、その股座(またぐら)から何やら出てくるのに気づいた。風呂から出たいと思っていたことも忘れ、その光景に目を奪われる。
小さな呻き声をあげながら、老婆はそれを産み落とした。一瞬水子かと思ったそれは、人形だった。ぬらぬらと濡れたまま湯に沈められると、たちまち大きくなり手足が動いた。人形は、十歳くらいの少女となった。
少女は老婆と俺を洗い場へ誘い、石鹸を丹念に泡立て、二人の身体を交互に洗い始めた。足の指から耳の中まで。臍も性器も例外なく。その感触に俺が我を忘れそうになると、やわらかい手は老婆の身体へかえってしまう。
落胆と期待の眼差しで、少女の手の動きを見つめる。幼い手に撫でられている皺だらけの肌は、次第に赤みを帯びていくようだ。腰が伸び、乳房が持ち上がる。老婆は、少女とそっくりな女になった。
「本当に親子なんですね」
「ええ。でも、そろそろ時間です。この子は帰らなくてはなりません」
冷水を浴びせられた少女は、人形に戻ってしまった。それを俺に差し出して、女が言う。
「お手伝い、してくださいますか」
俺は、泡の残る女の肢体を撫で回しながら人形を突き刺した。
ポプラ社 週刊てのひら怪談掲載作