お月さまとキスをするといいことがある。
そんな噂が街に流れていた。
ぼくはそれをいつかも話し掛けられたマネキンに聞かされたのだった。
「本当はアタシがお月さまのくちびるを奪いたいところなんだけど…
ぼうやならチュッてできるんじゃなぁい?どんなことが起きたか教えて。ネ?」
いいことがあっても小父さんとキスはしたくないな、と思った。
その晩、小父さんに尋ねてみると
「嘘では、ない」という答えだった。
「それで、誰かにキスしたことがあるの?」
「ひとりだけ」
その人は誰?という言葉はハッカ水と一緒に飲み込んだ。