懸恋-keren-
超短編
2003年6月25日水曜日
月をあげる人
「小さい頃ね、月をあげる人がいると思ってたんだ。
鼻が丸い小太りなおじさんが長い長い梯子担いで丘に上がるの。
丘の頂上に着くと梯子を空に立て掛けて登るんだ。よっこらしょって。
それでポケットから月を出して空に貼り付けて…何かおまじないを言うんだよ。
そしたら月が動きだすんだ。
そんなふうに思ってた。」
小父さんは黙ってぼくの話を聞いていた。
煙草を一本取り出して、火を点ける。
レモンの香りの煙を吐き出しながら言った。「ま、ハズレではないな」
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