「今夜は冷えますな。暖かいものが飲みたい」
「うちへ寄っていきませんか?ココアでも飲みましょう」
「ココア……それは面白い。お邪魔しましょうか」
お月さまがなぜ「面白い」と言うのか、わからなかった。
なぜならそう言ったお月さまの顔はちっとも「面白い」ように見えなかったのだ。
とにかく家にあがってもらい早速熱いココアを作った。
お月さまは「おいしい」と言ってくれたが震えていた。
私も一口飲むと一度脱いだ外套を慌てて着た。
「暖まるためにココアを飲むと、ココアはひがむことがあるんですよ」
2002年11月28日木曜日
THE MOONMAN
少年は月を眺めるのが大好きだった。
彼の部屋の小さな窓から月が去るのをひとしきり惜しんでから、ようやく少年はベッドに向かうのだった。
ある晩、月から一本のロープが垂れているのに気が付いた。
するとそのロープを伝って男が下りてくるのが見えた。
それは一瞬の事だったけれども、彼は疑いは微塵も持たなかった。
「あのおじさんはどこに行くのだろう。ぼくに会いにきてくれないかな」
坊や、月のおじさんはこれからお酒を飲みにいくんですよ。
坊やに「目撃」されたことを肴にね!
彼の部屋の小さな窓から月が去るのをひとしきり惜しんでから、ようやく少年はベッドに向かうのだった。
ある晩、月から一本のロープが垂れているのに気が付いた。
するとそのロープを伝って男が下りてくるのが見えた。
それは一瞬の事だったけれども、彼は疑いは微塵も持たなかった。
「あのおじさんはどこに行くのだろう。ぼくに会いにきてくれないかな」
坊や、月のおじさんはこれからお酒を飲みにいくんですよ。
坊やに「目撃」されたことを肴にね!
2002年11月27日水曜日
2002年11月26日火曜日
水道へ突き落とされた話
悪臭と轟音に目覚めた時、自分がどこにいるのか分からなかった。
見上げると満月が明るく、まだ夜中なのだと思った。
数秒もしない内に現実に気付く。
月なんかじゃない!あれはマンホールだ!ここは水道だ!
そうだ。あのマンホールから何者かに突き落とされて気を失っていたのだ。
「マンホールからの光を私と間違えた、ですと?けしからんな」
夢の話だと言っているのに、なかなかお月さまは許してくれなかった。
見上げると満月が明るく、まだ夜中なのだと思った。
数秒もしない内に現実に気付く。
月なんかじゃない!あれはマンホールだ!ここは水道だ!
そうだ。あのマンホールから何者かに突き落とされて気を失っていたのだ。
「マンホールからの光を私と間違えた、ですと?けしからんな」
夢の話だと言っているのに、なかなかお月さまは許してくれなかった。
2002年11月25日月曜日
はたして月へ行けたか
「さてと。では行ってくるよ」
行き先は?と聞いたら「ちょっと月まで」なんて便所にでも行くような口振りで友が出て行った日は、今日と同じような落葉も濡れる秋の雨の晩だった。
「月、出てないじゃないか」としか言えなかった俺も馬鹿だったがお前はもっと馬鹿だったよ。
となりで飲んでるお月さまにお前の消息を聞けずにいる俺は二十年経っても、やっぱり馬鹿なままだな。
行き先は?と聞いたら「ちょっと月まで」なんて便所にでも行くような口振りで友が出て行った日は、今日と同じような落葉も濡れる秋の雨の晩だった。
「月、出てないじゃないか」としか言えなかった俺も馬鹿だったがお前はもっと馬鹿だったよ。
となりで飲んでるお月さまにお前の消息を聞けずにいる俺は二十年経っても、やっぱり馬鹿なままだな。
2002年11月23日土曜日
2002年11月22日金曜日
星でパンをこしらえた話
「食べてみてください。私が作りました」
お月さまは紙袋からパンを取り出した。
私と『スターダスト』のマスターは興味津々で手を伸ばした。
パンを食べて驚く我々を見てお月さまは得意気に言った。
「作り方をお教えしましょう。材料は私が用意しますから」
翌日、開店前の『スターダスト』にお月さまは荷物を抱えてやってきた。
「活きのいい星をたくさん持ってきましたよ!さぁパンを作りましょう!」
新鮮な星は暴れるので粉にするのは難儀だったが、おかげでたくさんのパンが焼けた。さて、このパンを誰と食べようか?
お月さまは紙袋からパンを取り出した。
私と『スターダスト』のマスターは興味津々で手を伸ばした。
パンを食べて驚く我々を見てお月さまは得意気に言った。
「作り方をお教えしましょう。材料は私が用意しますから」
翌日、開店前の『スターダスト』にお月さまは荷物を抱えてやってきた。
「活きのいい星をたくさん持ってきましたよ!さぁパンを作りましょう!」
新鮮な星は暴れるので粉にするのは難儀だったが、おかげでたくさんのパンが焼けた。さて、このパンを誰と食べようか?
2002年11月21日木曜日
自分を落としてしまった話
家に帰ると部屋に白い箱があった。
中を覗くと、小さな白い箱を覗いている小さな人がいた。
その人を摘みあげるのと同時に自分も宙に浮いた。
恐怖のあまり摘んだ人を落としてしまった。
私は床に強く叩きつけられた。
見上げないほうがいい
見上げてはならぬ。
中を覗くと、小さな白い箱を覗いている小さな人がいた。
その人を摘みあげるのと同時に自分も宙に浮いた。
恐怖のあまり摘んだ人を落としてしまった。
私は床に強く叩きつけられた。
見上げないほうがいい
見上げてはならぬ。
2002年11月20日水曜日
ガス燈とつかみ合いをした話
「前から気になってたんだが、おたく独り言が多いよ。黙って聞いてりゃ人の悪口ばかり言いおって」
そんな声が聞こえて見回したが誰もいない。
「誰だか教えてやろう、あんたの右側にいるガス燈だよ」
私はガス燈につかみかかったが、びくともしなかった。
明くる朝、白いお月さまにこの話をしたら
「黒猫にはご用心」
とあくびしながら応えた。
すると黒い影がすっと横切った。
「本当だ!」
例のガス燈は三日寝込んだらしい。
そんな声が聞こえて見回したが誰もいない。
「誰だか教えてやろう、あんたの右側にいるガス燈だよ」
私はガス燈につかみかかったが、びくともしなかった。
明くる朝、白いお月さまにこの話をしたら
「黒猫にはご用心」
とあくびしながら応えた。
すると黒い影がすっと横切った。
「本当だ!」
例のガス燈は三日寝込んだらしい。
2002年11月19日火曜日
星?花火?
「昨日の夜、バーン バーンってうるさくってさあ。こんな寒いのに花火ってことはないと思うんだけど」
そんな話し声を耳にして、昨晩の出来事をよく思い出してみる。
確かに音が聞こえたけれど、もう布団の中で眠りかけていたからあまり気にならなかった。
どこかの若者が、花火でもやっているのかと思ったから。
何時間後かわからないが、そのあとフト目が覚めた時、部屋がやけに明るくて、窓を開けてみたらキラキラ輝くゴミが降っていた。
ちり紙とか、ラジオとか。ちびた鉛筆とか、底抜けの鍋とか。
とても綺麗だったので、そのあと15分くらいそれを眺めた。
「バーン」という音は、ずいぶん遠くで聞こえたから、たぶんそこでも数時間後にゴミが降るのだろう。
そんなイタズラをするのは、流星と黒猫に決まってる。
でも、それは誰にも言わないでおこう。信じてくれる人はいない。
なにせ、降ってきたゴミは朝にはさっぱり消えていたから。
そんな話し声を耳にして、昨晩の出来事をよく思い出してみる。
確かに音が聞こえたけれど、もう布団の中で眠りかけていたからあまり気にならなかった。
どこかの若者が、花火でもやっているのかと思ったから。
何時間後かわからないが、そのあとフト目が覚めた時、部屋がやけに明るくて、窓を開けてみたらキラキラ輝くゴミが降っていた。
ちり紙とか、ラジオとか。ちびた鉛筆とか、底抜けの鍋とか。
とても綺麗だったので、そのあと15分くらいそれを眺めた。
「バーン」という音は、ずいぶん遠くで聞こえたから、たぶんそこでも数時間後にゴミが降るのだろう。
そんなイタズラをするのは、流星と黒猫に決まってる。
でも、それは誰にも言わないでおこう。信じてくれる人はいない。
なにせ、降ってきたゴミは朝にはさっぱり消えていたから。
2002年11月18日月曜日
TOUR DE CHAT-NOIR
「黒猫の塔」と呼ばれる場所がある。
しかし、それは「塔」と呼ぶのが恥ずかしいような小さな建物で、なぜそれが「塔」なのかは判らなかった。
「あのうち、何て呼ばれているか、ご存知ですか?」
『スターダスト』からの帰り道、散歩がてらの遠回りお月さまに聞いてみた。
「黒猫の塔、でしょう?もちろん知っていますよ。私がそう呼んだのだから」
私が少し驚いた顔をしたのを見てお月さまは微かに笑った。
「黒猫について入ると、延々階段が続きましてね。それはもう、息が上がってしまって。ひどい目に合いました」
「黒猫がいない時は?」
「ただの空家。 入ってみますか?」
そのとき、ちらりと二つの光が見えた。
「……遠慮しておきます」
今度はとても愉快そうに笑った、お月さま。
しかし、それは「塔」と呼ぶのが恥ずかしいような小さな建物で、なぜそれが「塔」なのかは判らなかった。
「あのうち、何て呼ばれているか、ご存知ですか?」
『スターダスト』からの帰り道、散歩がてらの遠回りお月さまに聞いてみた。
「黒猫の塔、でしょう?もちろん知っていますよ。私がそう呼んだのだから」
私が少し驚いた顔をしたのを見てお月さまは微かに笑った。
「黒猫について入ると、延々階段が続きましてね。それはもう、息が上がってしまって。ひどい目に合いました」
「黒猫がいない時は?」
「ただの空家。 入ってみますか?」
そのとき、ちらりと二つの光が見えた。
「……遠慮しておきます」
今度はとても愉快そうに笑った、お月さま。
2002年11月17日日曜日
AN INCIDENT IN THE CONCERT
いくら照明が落ちていると言っても、突然訪れた闇に観客は少なからず動揺し会場内は騒然となった。
しかし、ピアノは何の躊躇いもなく調べを奏で続けている。
むしろ先刻までより生き生きと。
それに気付いた一部の観客がステージの方を見つめる。
やがてほかの大勢も闇に慣れるにつれて落ち着きを取り戻す。
いつのまにか月明かりを頼りに全員がピアニストを黙って見つめていた。
「あのピアニストは猫なんだって」
「まっくらな中で、確かにしっぽが揺れるのを見たんだとさ!」
小さな町のうわさ話。
しかし、ピアノは何の躊躇いもなく調べを奏で続けている。
むしろ先刻までより生き生きと。
それに気付いた一部の観客がステージの方を見つめる。
やがてほかの大勢も闇に慣れるにつれて落ち着きを取り戻す。
いつのまにか月明かりを頼りに全員がピアニストを黙って見つめていた。
「あのピアニストは猫なんだって」
「まっくらな中で、確かにしっぽが揺れるのを見たんだとさ!」
小さな町のうわさ話。
2002年11月16日土曜日
星を食べた話
「いらっしゃいませ。今晩は星屑シャーベットをお召し上がりください」
「星屑シャーベット?」
「本物の星屑のシャーベットです。年に一度しか手に入らないので本日限定、です」
そういって『スターダスト』のマスターは小さなガラスの器を出した。
薄暗い店の中でも、キラキラと眩しくほんのり酸味の利いたシャーベット。
「冬にシャーベットじゃあ、嫌がる人もいるでしょう?」
「私も色々と試してみたんですが……温めるとそれはもう、まずいんです。びっくりするくらい」
「へえ! 星屑ってどうやって手に入れるの?」
「これは、秘密なんですが……。うちの冷凍庫に出現するのです」
小さな器に乗ったシャーベットは、ほんの数口で食べ終わった。
「それはすごい!よくこれが星屑だとわかりましたね」
「それはお月さまが、こっそり」
「なるほどね」
マスターはそわそわと口を開いた。
「それで、シャーベットはどんなお味でしたか?」
「え?甘酸っぱくておいしかったよ」
「このシャーベット、食べる人によって味が変わるんです」
「星屑シャーベット?」
「本物の星屑のシャーベットです。年に一度しか手に入らないので本日限定、です」
そういって『スターダスト』のマスターは小さなガラスの器を出した。
薄暗い店の中でも、キラキラと眩しくほんのり酸味の利いたシャーベット。
「冬にシャーベットじゃあ、嫌がる人もいるでしょう?」
「私も色々と試してみたんですが……温めるとそれはもう、まずいんです。びっくりするくらい」
「へえ! 星屑ってどうやって手に入れるの?」
「これは、秘密なんですが……。うちの冷凍庫に出現するのです」
小さな器に乗ったシャーベットは、ほんの数口で食べ終わった。
「それはすごい!よくこれが星屑だとわかりましたね」
「それはお月さまが、こっそり」
「なるほどね」
マスターはそわそわと口を開いた。
「それで、シャーベットはどんなお味でしたか?」
「え?甘酸っぱくておいしかったよ」
「このシャーベット、食べる人によって味が変わるんです」
2002年11月15日金曜日
箒星を獲りに行った話
ラジオから「箒星情報」が連日流れている。冬になると皆必死だ。
「本日ぽんぽこ山方面に出現するとみられます。捕獲に向う人は火箸を忘れずに。みなさまからの箒星情報もお待ちしています。FMアポロ!05-25#まで」
ぽんぽこ山は歩いて行ける。すぐに重装備で出かけた。
「そんな格好でどちら迄ですか?」
「あ、今晩は。箒星を探しに行くところで」
「箒星!そんなのいくらでも差し上げますよ!あんなものどうするんです?」
「火鉢の火種にするのですよ」
お月さまは最高品質の箒星をくれた。喜ぶ私を怪訝そうに見ていたが。
「本日ぽんぽこ山方面に出現するとみられます。捕獲に向う人は火箸を忘れずに。みなさまからの箒星情報もお待ちしています。FMアポロ!05-25#まで」
ぽんぽこ山は歩いて行ける。すぐに重装備で出かけた。
「そんな格好でどちら迄ですか?」
「あ、今晩は。箒星を探しに行くところで」
「箒星!そんなのいくらでも差し上げますよ!あんなものどうするんです?」
「火鉢の火種にするのですよ」
お月さまは最高品質の箒星をくれた。喜ぶ私を怪訝そうに見ていたが。
2002年11月13日水曜日
2002年11月12日火曜日
2002年11月11日月曜日
2002年11月10日日曜日
2002年11月9日土曜日
2002年11月8日金曜日
2002年11月7日木曜日
2002年11月6日水曜日
2002年11月5日火曜日
2002年11月4日月曜日
黒猫のしっぽを切った話
ふと気配を感じて窓に目をやると黒猫が網戸にへばりついていた。
「わたしのしっぽを切って欲しいのです」
しっぽを切る……?
「……えー。しっぽ切るって、ほらトカゲじゃないんだし痛いでしょう?それにぼくが切らなくても、ねぇ?」
「はさみを持って来て下さい」
震える手ではさみを探し出す。
猫が舐めるとはさみは倍の大きさになった。
「これはこのためのはさみなのです。
さぁ、時間がないのです。急いで!……早く!」
目をつむりエイ!とはさみを閉じた。
豆腐なような感触。目をあけるとしっぽは消えていたが、四十年振りの星空が現われた。
「わたしのしっぽを切って欲しいのです」
しっぽを切る……?
「……えー。しっぽ切るって、ほらトカゲじゃないんだし痛いでしょう?それにぼくが切らなくても、ねぇ?」
「はさみを持って来て下さい」
震える手ではさみを探し出す。
猫が舐めるとはさみは倍の大きさになった。
「これはこのためのはさみなのです。
さぁ、時間がないのです。急いで!……早く!」
目をつむりエイ!とはさみを閉じた。
豆腐なような感触。目をあけるとしっぽは消えていたが、四十年振りの星空が現われた。
2002年11月3日日曜日
SOMETHING BLACK
「夜はなぜ妙な気分になるのでしょう」
『スターダスト』のマスターがぽつりと言った。今夜は客が少ない。
こんな時は異国の顔を持つマスターとゆっくり話ができる。
「妙な気分というと?」
「人恋しくなったり、心静かになったり、泣きたくなったり」
「夜の種には気分の成分が入っているのです」
そう言ったのは風変わりな、やはり常連の男だった。
パイプを取出し手で擦ると黒い粒がコトンと現れた。
「それが夜の種、ですか?」
「さよう」
黒い粒を両手でぱちん!と潰した。
「孤独の種」
『スターダスト』のマスターがぽつりと言った。今夜は客が少ない。
こんな時は異国の顔を持つマスターとゆっくり話ができる。
「妙な気分というと?」
「人恋しくなったり、心静かになったり、泣きたくなったり」
「夜の種には気分の成分が入っているのです」
そう言ったのは風変わりな、やはり常連の男だった。
パイプを取出し手で擦ると黒い粒がコトンと現れた。
「それが夜の種、ですか?」
「さよう」
黒い粒を両手でぱちん!と潰した。
「孤独の種」
2002年11月2日土曜日
IT'S NOTHING ELSE
「まばたきをするたびにさ、なにかひとつ消えてるんだよ」
「でも、みんなまばたきは毎日何回もしてるじゃないか」
「それでも世の中にはいろんなものがある、て言いたいんだろう?ふふふ ないものまで見えてるのさ。実に都合良くできている」
次の一瞬間、世界の美しかったこと!
「でも、みんなまばたきは毎日何回もしてるじゃないか」
「それでも世の中にはいろんなものがある、て言いたいんだろう?ふふふ ないものまで見えてるのさ。実に都合良くできている」
次の一瞬間、世界の美しかったこと!
登録:
投稿 (Atom)