「あの、前にもお逢いしたことありますよね?」
と声を掛けられた。いいえ、あなたのことは存じ上げません、と言おうとしたのに、言葉にならなかった。
声の主の目を見た途端、猛烈な懐かしさを覚えたのだ。
我々は生い立ちを語り合い、何か接点がないか探した。自分自身に接点がないとわかると、知人の知り合いかもしれないと旧友や親戚、同僚の名前も挙げた。しかしどれだけ時間をかけても二人の繋がりは何も見つからない。
「過去に何もなくても、これも何かの縁、これから改めて仲良くやりましょう」
と私は握手を求めた。相手の差し出した手は、八年前落ちていた千円札を奪い合った手だった。