空飛びさんに気付いたら唱える。
「空飛びさんが空飛んだ。そら見ろそれ見ろ毛ぇ剃らない」
実際、空飛びさんはごわごわとした毛むくじゃらで、あんな毛むくじゃらがどうして空を飛べるのかわからない。空気抵抗がありすぎる。
呪文だって、子供じみている。飛行中の空飛びさんにまじないは聞こえるはずがないと思う。おまけに耳の中にもびっしり毛があるのだ。あの毛は聴力を妨げているに違いない。
けれど、おまじないをしなかった向かいの奥さんは、空飛びさんにそっくりな脂っぽいごわごわな毛が膝の後ろに生えた。剃ってもたちどころに伸びるのだという。