「ずいぶんハイカラな襟巻きですね」
と、ご老人に声をかけられた。私が身につけている鮮やかなオレンジ色のスカーフを言っているらしい。
「私の襟巻きと、交換してはいただけませんか?」
老人の首には、暗い灰色の、使い古した布が巻かれている。
「え?」
私が返事に困っていると、そのシミだらけの細い手が素早く動いて、私のスカーフと老人の襟巻きは取り替えられてしまった。
老人の首に巻かれたオレンジ色のスカーフは、瞬く間に色がくすみ、老人はがっかりした顔をする。
「これもいけませんでした」
私は返してくださいとも言えず、無言で立ち去る老人を見送った。
老人のくれた襟巻きは、とても温かい。