2008年4月6日日曜日

暗がりで

 商店街を抜けると街灯が徐々に少なくなる。夜桜ばかりが白い。一歩前を歩く彼の気配は濃くなり、わたしは安堵するような、緊張するような、中途半端な心持ちになる。
 思わず袖を引っ張って、摘んだそれが彼の服ではないことに気が付いた。これは、シャツなんかじゃない。
「蝙蝠に気をつけな」
と彼の声がした。手の中のそれが、バタバタと暴れる。
「白い蝙蝠がいるんだ。ほら、あの樹」
 手の中の蝙蝠に引っ掛かれて、指から血が流れる。血の匂いに、桜の花が色めき立つのがわかった。
 桜の花びらが、一斉に飛び立つ。