ふと見つけた路地に入っていった。
ここに暮らして八年経つが、こんなところに道があるとは、まったく気づかなかった。
道の両側は家の外壁が迫っており、狭い道をますます狭く感じさせる。
夕食の支度をしているのだろう、焼き魚の匂いがした。
しばらく進むと少し開けた場所に出た。
地蔵が立っている。
私は足がすくんだ。長い時間、目を逸らすことができなかった。
これといった特徴もない、どこにでもあるようなお地蔵さんだ。
私は「これが欲しい」と思ったのだった。
強く激しい衝動だった。
少し考えて、私は地蔵の影をいただくことにした。
やはり地蔵を家に持ち帰るわけにはいかない。
地蔵を担いで歩いたら人目につくし、重いし、おそらく犯罪になる。
暮れかかった影は長く伸びているが、それでも構わない。
地蔵の影の頭からゆっくり慎重にめくりはじめた。
慌てて破くと大事だが、急がなければ日が暮れてしまう。
端が剥がれると、あとは早かった。
剥がした地蔵の影を丸めて持ち、家路を急ぐ。
持ち帰った地蔵の影は、部屋で一番広い壁に張り付けた。
あつらえたように、ぴったりと収まった。
私は満足し、地蔵の影を肴に酒を飲み、布団に入った。