2010年1月6日水曜日

この町のシンボル

町で一番高い塔の天辺についた時計は働きもので、一度も狂ったことはなかった。
町に暮らす誰もが塔に時計がついていることを知っているのに、塔は高く、時計は小さかったので、どんなに目のよい人でも時計を読むことはできなかった。
ある時、町を大きな地震が襲う。塔は、ゆさゆさと揺れ、ポキリと折れてしまった。
瓦礫の中から顔を出す時計。町の人や猫や犬が集まってきた。皆、塔の時計を見るのは初めてなのだ。
瓦礫は片付けられずにそのまま残った。もちろん時計もだ。文字盤が傷だらけになったけれど、時計は狂わずに動いている。
人や猫や犬は、瓦礫に埋もれた時計を見下ろし、時刻を確認して、満足する。
時計も、ようやく本来の仕事が出来て満足する。
この町のシンボルはかつて塔だった瓦礫と、そこに埋もれている正確な時計だ。