2010年1月2日土曜日

哲学する時計の話

 この古びたゼンマイ式の時計は、実際ずいぶん精緻な造りで、大変によい時計なのだが、主人がずぼらなせいで時を刻まぬ時間のほうが長い。
 時を刻めぬ時間、この老時計は考え事をしている。
『時計なのに時を刻まず、その間にも時は過ぎゆく。』
 老時計は、ずぼらな主人の手に渡ったがために、己の存在について深く悩んでいたのだ。
『吾刻む、故に吾在り。』
 しかし、主人が気まぐれに慌ただしくゼンマイを巻くせいで、せっかくの思考は歯車の回転に巻き込まれ、砕けてしまう。
 昨夜、主人は珍しく一月一日午前零時に時計を合わせた。歯車が動き出す。
 しばしの間、老時計は無心になる。

おみくじは大吉でした。