2010年1月27日水曜日

僕の時計

僕が初めて腕時計を手にしたのは、六歳の誕生日のことだ。
空色のかわいらしい腕時計だった。子供用だけど、おもちゃではなくて、おじいちゃんが時計店に連れて行ってくれて買ってくれたものだ。
その時の僕はまだ腕がひょろっと細かったから、時計店のおじさんは、バンドに穴を増やしてくれた。
「よし、これでぴったりだ」
とおじさんは時計と僕の顔を見ながら、満足そうに頷いた。
「おまえの人生はこの時計が見守ってくれるはずだ」
おじいちゃんは帰り道にそう言った。ちょっと聞いたことのないような、少し低い怖い声だった。
「うん」
と応えるのが精いっぱいだった。

それ以来、ぼくはずっとずっとこの空色の腕時計を使っている。何度も何度も電池を取り換えた。ランドセルもグローブもあっという間にボロボロにしてしまったけれど、時計だけは大事に使った。
もう僕は大きくなって、この小さな腕時計のバンドは手首より短くなってしまった。
時計屋に連れて行ってくれたおじいちゃんもこの前、死んだ。
僕は腕時計をポケットに入れている。これからも、僕の時間を刻むのは、この空色の時計しかいない。

森銑三『物いふ小箱』を読みはじめた。
いくつかはとりわけ短く、超短篇な予感。
先日読み終わった種村季弘編の『日本怪談集下』にいくつか収録されているのが気になって、図書館で借りてきた。

古切手を筆頭に、小さくて色とりどりなものを集めて並べて愛でる性癖があるのだが、好いたらしい超短篇と出逢った時の興奮は、これに近い。
脳内に、書棚に、お気に入りの超短篇を標本のように並べたい。
時々、並べ替すのもまた、一興。


あ、お題増やしたよ、いさやん(名指しかよ)。
やっぱり漢字が多い。お題作りにも自分の癖って出るな。
「時計」シリーズに飽いたら、自分でも書いてみようかな。