占い師は、小柄な品の良い老婦人で、さっぱりとしたブラウスにカーディガンを着ていた。私が持っていた幾つかの占い師のイメージとは大きくかけ離れた、やさしそうなおばあさんだった。
占い師の傍らには大きな水晶のクラスターがある。中には小さな懐中時計が埋まっていた。後から埋め込んだようには思えない。
私が覗き込むように時計を見ていると「あら、よく気がついたわね」と占い師は微笑んだ。
「この時計が止まる時、それは私は占いを止める時。もうずいぶん前から遅れていて、すっかり時間は狂っているのに、なかなか止まらないのよ。もう120年も経ってしまった。この時計が止まらないと、私は死ぬ事もできないの」
私が驚きを隠せぬまま占い師を見つめると、占い師は「さ、始めましょう」と見慣れぬカードや羅針盤のような道具を取り出した。
カードを操る指先や、まじないを唱える小さな声が心地よい。
カチリと音がして、占い師の声が止まる。傍らの水晶が曇る。
水晶が曇ったせいでよく見えないけれど、おそらく時計が止まったのだろう、と理解する。
たちまち占い師は砂のように崩れ、後には白い骸骨と曇った水晶と、結果を聞き損なった占いが残った。
私は曇った水晶クラスターを抱えて、占いの館を後にした。
水晶を割ったら時計の螺旋を巻くことができるかもしれない、と考えながら、家路を急ぐ。