彫刻家は、西の岸から橋を渡る。欄干に龍を彫りながら。
彫刻家は家に帰らない。恋人が弁当を持って来て、二人で食べる。汗をかくと湯の入った桶と手拭いを持って来た恋人に身体を拭かせ、夜は橋の上で蹲って眠る。
ようやく東の岸まで来たが、橋を降りることなく反対の欄干を彫り出した。
尾から彫り始めた龍が、徐々に太く、たくましくなる。鱗はいよいよ細かく、輝きを増す。鋭い爪が宝珠を握る。
二年の歳月をかけ、彫刻家は西の岸まで戻る。最後に睛を入れ、彫刻家は橋を降りた。
すると、にわかに龍は躍動し、彫刻家を丸呑みしてしまう。