いつもよりほんの少し饒舌なあなたに、わたしは少しとまどう。けれど、すぐにここが夢の中だからだと気が付く。
「正確には夢の中じゃない。よく似ているけれど、全く違うところなんだ」
とあなたは言った。
「夢の外の、つまり夜の闇に開いた、ピンホール。その中だ」
よくわからないよ。
「夜の闇は宇宙と同じくらい広くて深い。そこに一ヶ所だけある小さなキズのような穴に、おれたちは入り込んだ」
ますますわからない。だけど、此処はなぜだか心地よい。でも、どうやって。
「キズがほんの少し広がっていたから、見つけられたんだ」
どうして。
「春だから、だよ」
あなたのこの言葉が合図だったかのように、目の前に亀裂が走り、ぐぐっと開き、外、つまり夜の闇に押し出された。
あなたはいつもの無口に戻る。
もう少し、あなたの声を聞いていたかったのに、とわたしは悔やむ。