懸恋-keren-
超短編
2008年3月7日金曜日
桃の枝
淡い桃の香りを漂わせていたから、前を歩くその老女に背負われた大きな枝の束が、桃だとわかった。
こんなにたくさんの枝を一体何に使うんだろうか。そう思ってると、老女は小さな掠れた声で、一本調子の独り語りを始めた。
「桃ちゃんは十九で死にました。埋められたところに、誰も植えていない桃の木が育ちました。毎年桃ちゃんの枝で染めた綿で、おくるみを作ります。桃ちゃんの腹には赤ん坊がいました。おぉ、よしよし」
老女は、赤ん坊をあやすように背中の枝を背負い直した。その途端、鮮やかすぎる色の桃の花が一斉に咲いた。
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