桜の花びらに埋もれながら、祖父の声を思い出す。
一番上の抽き出しにあるノートは開いてはいけないよ。開いたら最後、消えてなくなってしまうから。
一番上の抽き出しが開いているのに気が付いて、慌てて閉めようとしたが、間に合わなかったのだ。
強い風が窓から入ってきてノートを巻き上げた。
ぱらぱらと捲れあがる頁はそのままさらさらと灰になった。
ノート、本当に消えてなくなっちゃったよ、おじいちゃん。
なおも灰は風に飛ばされ、部屋の中が砂漠のように霞む。
窓は閉めたけれど、灰はほんの数枚部屋に入った桜の花びらを、何万枚にした。花咲かじいさんみたいだね、おじいちゃんのノートは。
この花びらを庭に埋めよう。大きな穴を掘って、一枚残らず。